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​古 桜

 帰還困難区域の中にある飯舘村長泥地区の住民たちは、故郷で再び暮らすことを願い仮設住宅や借上げ住宅に留まっていたが、ここ1、2年の間に新たな土地に家を建て、暮らし始める人が急速に増えてきている。

 それでも、故郷への思いは断ち切れずにいる。

 福島県内のあちこちに分散した住民は、春になれば長泥地区の白鳥神社にやってくる。人々の健勝と部落の回復を祈念した例祭を執り行うためである。

 このことは、先祖代々暮らし受け継がれてきた土地や自然との関わり合い、人間相互の関係はそう簡単に絶えるものではない、絶えさせてはならないのだという住民の強い意思の表れともいえる。

 自然のほうもこれまでずっと共にあった人間の営みが突如として途切れてしまったことに対し、戸惑っているのではないか。

 自然という存在自体は感情すら持ち得ないものだとはわかってはいる。

 だがしかし、氷で閉ざされた池の底にはじっと春を待つ鯉の姿があり、春になれば庭先の古桜は満開の姿を見せ、数日で花びらを落とし、水面を桃色に染めるのはなぜだろうか。

 かたわら、夏場の庭には植えたはずのない草に覆われかつての庭の面影もないほどになっていたというのに、その翌年、福寿草がその片隅に顔を覗かせる。

 それに、人の背丈の倍以上に成長した柳が密生した野に、早春には水仙が咲き、秋になれば彼岸花が一列に並び、そこがかつての水田の畦だったことを私に知らせるのは一体どうしたことだろう。

 私には自然もまた、人々の帰りを待ちわびているように見えるのだ。

Brother Falcon

 ハヤブサは鷲鷹の仲間であり、カラスほどの大きさの猛禽類である。生息地は、主に海岸線の断崖や岩壁などで、一年を通してそこで暮らす。

 ハヤブサの狩りは、飛翔している鳥を空中で捕らえるアクロバティックなものである。数キロ先まで見通すことが可能な鋭い眼力を駆使し、目標が定まると枝を蹴って猛進する。獲物の上空に到達すると、急降下して自らの体を相手に激しくぶつける。卒倒した獲物を短剣のように鋭いかぎ爪で俊敏に鷲づかみにするのだ。

 ハヤブサの繁殖には、「餌となる鳥が多い、獲物が見つけやすく飛翔の妨げとなる障害物がない」場所の選定が重要である。野鳥が多く棲む海岸線の切り立った断崖は一等の居住地である。

 春浅い頃より繁殖行動が見られ、つがいが形成されると交尾を繰り返す。3月下旬、崖の岩棚のくぼみに直接3、4卵を産む。雌雄交代で卵を温め、1ヶ月ほどで孵化する。ハヤブサの兄妹は仲が良く食物を奪い合ううということはない。それから40日ほど親は雛に食物を与え続ける。

 その後、巣立ちしたハヤブサ兄妹は、しばらくは両親の庇護のもとで飛翔や狩りの練習を重ね、秋口には独り立ちし親鳥のテリトリーから去っていく。

​ 親や兄妹との縁もそこで切れることになる。

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